事例紹介

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Q&A・労働相談あれこれ(年次有給休暇編)

弁護士 塩沢忠和(2015.7.21作成)
 様々な労働事件で相談を受け感ずることは、労働者自身に働くルール(ワークルール)を身につける機会が与えられていないことです。中学や高校で、例えば「クーリングオフ」のような“賢い消費者”になるための教育は実施されていますが、“賢い労働者”になるためのワークルール教育はほとんど行われていません。
 そんな中で、最近ようやく、ワークルール教育の重要性が認識され始め、そのためのボランティア活動も行われるようになっています。私も、今年(2015年)1月、静岡県立藤枝東高等学校から要請され、働きながら学んでいる定時制の生徒さんに一時間ほどの「働くルール講話」というものを話す機会がありました。
 そんな私の経験などをもとに、Q&Aを作成しました。まずは「年次有給休暇編」です。今後随時、身近な問題で「解雇編」「賃金未払編」などを紹介していく予定です。

  1. 「うちの会社には年次有給休暇の制度はない」と言われました。
  2. パートタイマーでも年次有給休暇は取れるのでしょうか。
  3. ウソの理由で年次有給休暇を取得したことが会社に知られてしまいました。
  4. 「年次有給休暇を取るのはいいが、今月は忙しいので来月にしてくれ」と言われました。

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 Q1.「うちの会社には年次有給休暇の制度はないよ」と言われ、これまで6年半まじめに働いてきましたが、一度も年次有給休暇をとったことがありません。入社時に「年次有給休暇がない」と言われてそれを承知してこれまで働いてきた以上、やはり請求できないでしょうか?

 A1.そんなことはありません。
 年次有給休暇(以下「年休」という)は、労働基準法が使用者にその付与を義務付けている労働者の権利であり、これに反する入社時の約束ごとは無効であり、この義務に違反すると使用者には罰則もあります(そういう意味で労基法は「強制法規」と言われています。とは言え、この年休が法律どおり取得できない実態もたしかにあります)。
 年休を何日もらえるかは労基法39条が下記のとおり定めています。入社後6ヶ月継続して働くと(但し八割以上出勤することが条件)10日もらえ、その後勤続年数が増えると年休の日数も増え、最長で年間20日です。但し、年休を取る権利は2年で時効で消滅します。
継続勤務期間年次有給休暇付与日数
6ヶ月10日
1年6ヶ月11日
2年6ヶ月12日
3年6ヶ月14日
4年6ヶ月16日
5年6ヶ月18日
6年6ヶ月20日

 そこで、Q1の方は、まじめに働いて(八割以上出勤して)6年半が経過しているので、例えば「もうこの会社は辞めよう」と思った時には、退職する二年前に遡り年休を請求できます。
 この方の場合は、昨年の18日と今年の20日、合計38日を、まとめて請求できます。つまり、退職前38日間働かなくても働いた分の年休を取得してから退職すべきです。
 なお、時々、「退職時に取り切れていない(いわゆる未消化の)年休を会社に買い取ってもらいたい」と希望する方がいますが、これは法的には無理で、交渉により会社側が受け入れた場合に可能になります。


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 Q2.私は主婦で、家事や育児の関係から、週に2日出勤しているパートタイマーです。パートでも年次有給休暇は取れるのでしょうか。取れるとすれば、どの程度取れるのでしょうか。

 A2.労基法39条3項及びこの規程を受けての厚生労働省令で、パート・アルバイトなど正社員に比べて所定労働日数が少ない労働者にも、年次有給休暇を与えられます。その日数は、通常の労働者の所定労働日数とのバランスを考えて次のように定められています。
週所定労働日数一年間の所定労働日数雇入れの日から起算した継続勤務期間
6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
4日169~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

 非常にややこしく、自分の場合はどうなるか正確に知っておくためには、労働基準監督署に問い合わせることを勧めます(労基署は、労使紛争が発生してしまった場合には余り役に立ちませんが、このような事前相談の上では役に立ちます)。
 なお、「パート」と言っても、実際には通常のフルタイム労働者(正社員・有期雇用者を問わず)と同じくらい働いているパート労働者はたくさんいます。次のような場合には、そうしたフルタイム労働者と同じ日数の年休を取れることを知っておいて下さい。
 ①週の労働日数が少なくても、1日の労働時間が長く、週の所定労働時間が30時間以上の労働者(例えば1日7時間半で週4日働く労働者)。
 ②パート・アルバイトなどで1日の所定労働時間が短くても、週5日以上働いている場合(例えば1日3時間で週5日働く場合)。


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 Q3.家族旅行のために年休を取ることにしたのですが、「家族旅行のため」とは言いにくく、「親戚の法事のため」と言って取得しました。
 ところが後日、会社にそのことが知られてしまい、「ウソの理由で年休を取ることは許されない」との理由で、欠勤扱いになりました。
 ウソをついた以上、欠勤扱いはやむを得ないのでしょうか?


 A3.そんなことはありません。
 本来、年休を何に利用するかは労働者の自由であり、使用者がその利用目的いかんによって取得を許可するというものではありません。そもそも年休を何に利用するかを明らかにする義務もありません。ですから、伝えた利用目的とは別のことに利用したからといって、違法になるわけではありません。
 但し、ウソをつくのはやはりよくなく、場合によっては懲戒処分の理由になる可能性もありますから、ウソの理由で申請することはやめた方がよいでしょう。


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 Q4.年休取得の申請をしたところ、「年休を取るのはいいが、今月は会社が忙しいので来月にしてくれ」と言われてしまいました。会社には時季変更権というものがあるそうで、これには従わざるを得ないでしょうか。

 A4.使用者は労働者が請求する時季に年休を与えることが原則ですが、その時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、別の時季に与えることができるとされていて(労基法39条5項但書)、これが、使用者の時季変更権と呼ばれるものです。
 しかしその要件は、「事業の正常な運営を妨げる場合」であって、単に「今忙しいから」ではこの要件を満たしていません。例えば、「その日、その仕事はその労働者しかやれない場合」に「その日は困るから別の日に休んでくれ」と時季変更できるのです。
 使用者はなんとか人員のやりくりをして労働者の年休取得ができるよう配慮すべき義務があります。ですから、常に人手不足となっているような職場では、そもそも時季変更権の行使が認められないと考えられます。


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