事例紹介

-事例紹介-

浜松基地自衛官人権裁判

弁護士 塩沢忠和(2012.9.6作成)
 今、学校でのいじめによる自殺問題が社会的に大きな問題になっていますが、実は今、自衛官の自殺が後を絶たない状況が続いています。航空自衛隊浜松基地で29歳の隊員(当時三等空曹)が先輩隊員のいじめ(パワハラ)によって自殺に追い込まれた事件の発生は、2005年でしたが、この年の全国の隊員自殺者は100人を超えていました。
 1998年度から2007年度までの自衛隊員自殺者の原因別は、「病苦」48人、「借財」189人、「家庭問題」83人、「職務」82人である一方、「その他・不明」は実に444人です。そして、浜松基地自衛官の死は、この「その他・不明」の中に埋め込まれていました。防衛省の資料では、自衛隊員の自殺原因に、隊内における「私的制裁」や「いじめ」あるいは「パワハラ」は含まれていないのです。

 「息子(夫)の自殺が先輩隊員のいじめによるものであることを何としても明らかにしてほしい」との、遺族(両親と、結婚したばかりの妻と生まれて4ヶ月の長男)の切なる願いから、自衛隊(国)及び加害者隊員に対して国家賠償(損害賠償)請求訴訟を提訴したのが2008年4月でした。以来3年3ヶ月にわたる原告ら(遺族)の、涙なしには語れない苦労と、これを支えた支援団体(たまたま第一回の裁判を傍聴した人々によって草の根的に結成された)の取り組みが、昨年7月11日の全面勝訴判決という成果をもたらし、しかも被告国が控訴しなかったことから、この一審勝訴判決が確定しました。

 自衛官の自殺、あるいは「訓練中の事故死」をめぐり、その真の原因究明を求める遺族が原告となっての裁判は、全国で今でも続いています。現在、東京高裁に係属中の海上自衛隊「たちかぜ」裁判もその一つであり、私もこの弁護団に参加しています。

 以下の文書は、私が所属している自由法曹団の通信に、浜松基地自衛官人権裁判の勝訴判決確定後間もない時期に投稿した文章に、多少加筆訂正したものです。
 私たちの事務所が取り組んだ重要事件の一つとして、まずはじめに、この自衛官の自殺をめぐる国家賠償請求事件を紹介します。

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